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2011.01.05 (Wed)

【つるかめ物語 邪ま篇06】

***06

More・・・



 キョーコは、龍宮の天守からはるか頭上に続く水面を見上げていた。
 ふんわりとした白い衣を胸の下の帯で結わえ、柔らかな絹に羽毛を敷き詰めた褥に半身を横たえる。   
 丁寧に梳【ルビ『梳』→くしけず】られた黒髪が背を流れ、白い衣に映えたその姿は、まるで深窓の姫の様であった。
 しかし、その真綿でくるむような扱いとは裏腹に、両手両足には重たげな鉄輪が嵌められ、先を鎖で繋がれている。…それは、少女が何度か逃げようとした証であった。
 半ば魅入られるようにはじめてのまぐわいを味合わされて後、キョーコは蓮に心を閉ざした。
 はじめは幼子にするように、キョーコの心を解こうと努めた蓮だったが、頑ななその様子についに癇癪をおこしてからは、生来の残虐を好む性質が蘇り、夜毎嫌がらせのようなまぐわいを強いるようになっていた。
 蓮が無理に教え込む性戯は淫蕩で、キョーコを無垢な心と熟れていく身体のふたつに引き裂いた。
…ふたりのあいだに、身体を繋げる前の蜜月はもうかえらないかのようだった。
 片時も離れず傍にいた存在が、今は無理に押し開く時にしか姿を見せない恨めしさ。
 キョーコは、袖で覆って眉間の歪んだ顔を隠した。

 その時、思いに沈むキョーコの頭上を、轟音と共に白い稲妻が一閃した。
 天守の一角が崩れて朦々とした白煙がたち込める。衝撃に身を竦ませて、うつぶせたキョーコは、呆然と辺りを見やった。
 白煙の向こうに、何ものかの姿がある。
 キョーコは知る由もないが、それは龍宮の結界を別の力が切り開いた事に拠る衝撃だった。
「よう、助けに来たぜ」
 秀麗な姿に合わぬ大刀を引っさげ、片膝をついて、にやりと笑う姿は、いつか出会った鶴の化身の少年だった。

***

 鶴の王、松太郎は、眼前のキョーコを見つめて少し驚いていた。つい先頃出会った時のキョーコからは思いもよらない変貌ぶりに、彼らしくなく戸惑う。
 それと同時に、乙姫のこの人間への激しい執着ぶりを見せつけられて、自分の狙いが的外れではなかったと知り、こっそりほくそ笑んだ。
 キョーコと出会い、乙姫と邂逅したあと、天空の城に帰った松太郎は、お目付け役である鷺の長老、梟の長老、猛禽の兄弟たちから懇々と説教を受けた。

(相手は天地初発の頃より悪名轟く黒龍王ですぞ!!)
(目が合って秒殺されなんだだけもうけもの、以後我々の目を盗んでの下界遊びはお止め頂きましょう!!)
 長老たちは、松太郎に乙姫の恐ろしさを微に入り細に穿って言い聞かせた。
 齢三千にして、いまだ若子の松太郎は、鼻をほじる程度の心持でそれを聞いていたが、長老たちのくどくどしく言い連ねる言葉に王らしい自尊心が刺激され、それは次第に乙姫への反発心を育てた。
(どいつもこいつも、俺があの蛇に敵わないといいおる)
 イライラとうろつきながら、松太郎は乙姫より自分が勝る事を証明したくてたまらなくなった。
 そしてふと、乙姫の傍らによりそうように居たキョーコを思い出した。
(キョーコ、と言った)
 天空の城にいる鳥の姫たちの美しさに比すれば、その足元にも及ばぬ程度の造作であったが、確かに妙に心を動かされる人間ではあった。
 乙姫が、掌中の珠のように扱っていた存在。
(ヤツの贄…とか言っていたか)
 あんな、健気でいじらしく、可愛らしくはあるものの、やせっぽちでちっぽけな人間に執着している程度の蛇めのくせに。
(あれを、横から攫ってやったら…)
 あの取り澄ました蛇は、どんな吠え面をかますだろうか。
 松太郎は、それを思いついた途端、我慢ができなくなった。

 そして彼はやってきたのだった。

***

 キョーコは、渦を巻く海中にぶつかり合うふたつの力を呆然と見守った。
 海上では、晴天にわかに掻き曇り、不穏な雲が垂れこめ波を高くした。日輪が隠され、昼にもかかわらず夜のような暗闇が辺りを覆い、空を裂く稲妻の轟音がとどろいた。
 夫々【ルビ『夫々』→それぞれ】の刃をまじえるうち、二柱【ルビ『二柱』→ふたはしら】の神からは、ひととしての輪郭がぼやけて失われ、やがてそれは翼の形の白い光と渦を巻く黒焔の正体を現しはじめた。
 人の子として、見ることの能わざる異形どうしの闘いに、キョーコは畏れた。
 黒と白のそれは絡み合い、せめぎ合って、力のほどは意外にも拮抗しているふうであった。

(…おまえのように、族を持ち、それに思う様甘やかされた天真爛漫な若子を見るとのう…)
(…これ、このようにひねり潰してしまいたくなる…)

(蓮)
 戦い前の対峙。蓮が松太郎に見せた仕種を思い出し、ツキン、と、キョーコの胸が痛んだ。
 蓮には、おそらく一族と呼ぶものがないのだろう。
 元々なかったのか、長い時のうちに失われたのかは知る由もない。ただ、鶴の王を見る蓮の目には、狂おしい何かが仄見えた。
 それと同じとはいわぬまでも、ただひとりでいる孤独を、キョーコは知っている。
 物心のついた頃には二親はおらず、育ての親をも喪ってからは独りで魚を採り、独りで食事をし、独りで眠った。
 でも…、とキョーコは思う。
 自分には、さみしい時に、レンがいた。
 朴訥な亀の仕種は、キョーコを慰めて余りあった。
 また、朧な記憶の彼方には、いつも蓮の強くやさしい感触があった。その腕に抱かれて、赤子のおのれは安心して眠りについたのだろう。
 だから。

(だから…?)

(甘やかされた若子め、何もかもを手にしていながら、その上俺からキョーコまでも掠め盗ろうというのか、業腹な)

 蓮の雄叫びが海中をふるわせた。
 龍宮に満ちた、絶対の静寂。金銀珊瑚や宝玉で美々しく飾られた豪奢な空間に、冥府の世界にも通じるような、ほの昏い印象。
 それはそのまま、蓮の内部のような気がした。
 そしてキョーコは、どこか散漫な黒焔の闘いかたは、蓮がその力の多くを、自分を囲うこの龍宮を守るために裂いている所為だということに気付いた。
 …二重三重にかけられた思い。
 己の何が、蓮の心に適ったのかわからない。しかし、ここに至ってキョーコは遂に、蓮がおのれに見せる強い執着に気付かないわけにはいかなかった。

(レン…、蓮)

 夜毎繰り返される愛撫。
 その熱さと、激しさと。
 幾星霜の孤独を、重ねるまぐわいで癒そうとするかのように。
 幼い頃、しがみついていた大きな身体に、今度は自分がしがみつかれて…。
 しかし自分は、それを拒絶したのだ。

 空気が振動した。
 はっと顔をあげたキョーコの眼前で、黒焔がのたうつ龍のかたちに具現し…天守をめがけて落ちてきた。  
 それは、鶴の王に破壊されずに残った分を押しつぶし、うねるように海底に叩きつけられた。
 轟々と渦をまく水の中で、キョーコが空気の珠に守られて浮かぶ。蓮は、かたときもキョーコの存在を忘れない。少女は、涙を溜めた目をして、両手をのばした。
 白い翼は海水を巻き上げて竜巻を起こし、海上へと躍り出ると、たっぷりと空気を含んで再度海中へ没した。黒い龍をめがけて爛々と眼を光らせ踊りかかるかのような白い光は、正に蛇を狙う一匹の猛禽にも見えた。

(れん!!)

 キョーコは、白鶴と黒龍のあいだに割って入った。
 ふたつの巨大なエネルギーの前で、視認することも困難な、ちっぽけな生き物が、両手を広げて遥かな巨体をかばうように立ち塞がった。
(な…)
(ばかっ)
 ふたつの大いなる生き物が、同時に叫びに近い声をあげた。
 白鶴の放つエネルギーは止めようもなく、小さな身体を引き裂いた。

(キョーコ!!)
(蓮………)

 キョーコは、手をのばしたまま、蓮をひた、と見つめた。あどけない貌をして、水中をゆっくり沈みながら、唇の端を一筋の鮮血がこぼれる。
 その姿は奇しくもその母の最期と酷似していた。

 ごめんね。
 わからなくてごめん。
 いっぱいもらっていたのに、返すことを惜しんだ。
 だからこれは……
 罰なのだと。

 空気さえも凍りついたような静寂の中、断末魔の奔流のような思いが、ひとときその場を満たした。

(―――――!!)

 蓮は声にならない絶叫をあげて、キョーコのちぎれた身体を引き寄せた。
(ならない、許さない、そんな事は許さない)
 自分でも意識しないまま、半分だけ人化した巨体で、狂ったように己の胸を破り、龍の珠を取り出す。
(おまえを喪うことは許さない)
 蓮は咆哮し、己のいのちである龍の珠を打ち砕いた。

23:00  |  鶴亀  |  Trackback(0)  |  Comment(0)

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